動画提供:エドワーズライフサイエンス社
心臓は血液を全身に送るポンプの働きをしています。全身に酸素を送り届けた血液(静脈血)は、右心房に帰ってきます。帰ってきた静脈血は、酸素を補給するために右心室から肺へ送られます。肺で酸素を取り込んだ血液(動脈血)は左心房へ戻り、その動脈血は左心室の出口である大動脈弁から勢いよく全身へ送り出されます。
大動脈弁は、送り出した血液が心臓に逆流しないよう、3枚の弁が組み合わさり、大きく開きしっかり閉じる仕組みになっています。
この大動脈弁が加齢などにより石灰化して硬くなり、弁が開きにくくなることで、血液の流れが妨げられてしまう疾患を大動脈弁狭窄症といいます。
大動脈弁狭窄症は、病気が進行すると息切れや胸部圧迫感、失神などを引き起こすのみでなく、突然死などのリスクも高い病気です。そのため、硬くなった弁を人工の弁に取り替える手術を受ける必要があります。代表的な治療法は「大動脈弁置換術」という開胸手術で、心肺を一時的に停止させ心臓を露出し、狭窄している大動脈弁を人工弁に取り替えるものです。
この手術はすでに術式が確立しており、安全で確実性の高い手術です。しかし、人工心肺装置を利用するため、全身の臓器にかなりの負担を強いることになります。ご高齢の方や、癌のある方、開胸手術や放射線照射の既往のある方、ステロイド内服中の方、維持透析中の方、肺や肝臓などに重症な疾患がある方はこの手術を行うことが困難な事が少なくありません。そのような患者さんを対象にした低侵襲な治療法として開発されたのが「経カテーテル大動脈弁留置術 TAVI」です。
豊富な経験と知識を持ったスタッフが治療にあたります。 三井記念病院では、TAVIの導入に当たり綿密に準備を進めた結果、 2013年10月の保険認可後、比較的早期に導入することができました。
TAVIの実施には、ハイブリッド手術室という手術台と心・脳血管X線 撮影装置を組み合わせた治療室の設置が必須条件となっています。 三井記念病院では、2009年の病院建て替えの際には、計画段階からTAVI導入を視野に入れ、ハイブリッド手術室を完備していました。
TAVIを行うには、ハートチームの存在が不可欠です。当院でも高度なカテーテル治療の技術を持つ循環器内科医と心臓血管外科医をコアに麻酔科医、心臓画像診断専門医やME(臨床工学技士)、看護師、放射線技師、その他コメディカル、事務職員など、総合病院であることを活かし、様々な職種の専門家からなるハートチームを形成しました。
大動脈弁狭窄症は高齢化に伴い発症しやすい病気であるため、いざ診察すると高齢ゆえ心臓以外にも疾患を抱えている方が多いのが現実です。
当院は心臓専門病院ではなく総合病院で35の診療科それぞれに専門スタッフがおります、各科の垣根が低く他の科と連携しやすいため、患者さんの身体の状態を総合的に判断して治療すること、また他の疾患に関しても院内で対応できることを強みとしています。
プロクターとはTAVIの適応や技術指導を他施設で行うことができるTAVIのスペシャリストのことで、当院ではSapien弁(エドワーズ社製)、CoreValve弁(メドトロニック社製)それぞれのプロクター資格者が在籍し、質の高い治療を提供しています。
当院は2021年2月から、透析患者さんに対する経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)の治療を開始しました。
2021年1月に慢性の透析患者さんに関してTAVIの適応拡大が承認され、全国の約30の限られた施設でのみ許可された治療で、当院はその施設の一つです。
透析患者さんの7割近くが65歳以上とされていることから、加齢とともに増加する大動脈弁狭窄症を患う透析患者さんも一定程度おられます。また、透析患者さんにおいて重症の大動脈弁狭窄症の罹患率が高いことも知られています。これまでは開胸による大動脈弁置換術しか行われませんでしたが、今回の適応拡大によって、より侵襲性の低いカテーテルによる治療を透析患者さんに行うことができるようになりました。
外科手術により大動脈弁置換術で生体弁を植込んだ場合、その耐久性は10~20年と言われ、石灰化や摩耗により徐々に劣化していきます。そして弁が機能不全を起こすと、胸の痛みや息切れ、意識消失などを生じ、再び弁の置換が必要になることがあります。TAV in SAVは再置換が必要となった外科生体弁の中にカテーテルで新しい生体弁を植え込むことで、弁機能を改善することが期待できる治療で当院でも治療が可能です。
以前にTAVIを受けた患者さんの中にはTAVI弁が経年劣化して、新たに大動脈弁狭窄症や閉鎖不全症を発症する方がいらっしゃいます。外科手術によって古いTAVI弁を取り出したのちに新し い外科生体弁を留置する手術が必要になることもありますが、手術リスクが高いため、再度TAVIを行い、内側からTAVI弁を二重に重ねて留置する手技が一部の患者様で承認され、当院で 施行可能になりました。
患者さんの全身状態などを鑑み、再度開胸手術を行うか、TAVIを行うかを、専門家から構成されたハートチームで協議し、それぞれの患者さんに最適な治療方法を提供致します。
ハイブリッド手術室
総合病院の強みを活かしたハートチーム
循環器内科医、心臓血管外科医麻酔科医、心臓画像診断専門医やME(臨床工学技士)、看護師、その他コメディカル、事務職員循環器内科科⻑・SHD(構造的⼼疾患)センター⻑
阿佐美 匡彦
田邉医師よりメッセージ
2013年12月からTAVI に従事し多くの患者さんを治療して参りました。現在、指導医、並びにプロクターの資格を持っています。TAVIを希望される患者さんは比較的高齢でいらっしゃいます。このため他臓器の問題点を抱えていらっしゃる方、あるいは、心臓を調べていくうちに他の疾患も見つかったという方が大勢いらっしゃいました。
心臓だけ治して他の病気を見逃した・治療しなかったということにならないよう全人的検査・治療を心がけています。この観点で、各科の垣根が低い総合病院である三井記念病院は威力を発揮します。是非お問い合わせください。
循環器内科 部長
田邉 健吾
心臓血管外科科⻑・医療安全管理部部⻑
三浦 純男(みうら すみお)
外来日
木曜日 午後、第3土曜日 午前
画像提供:エドワーズライフサイエンス社『TAVI-web.com』
阿佐美医師よりメッセージ
2015年より3年半の間、スイスのベルン大学で主に弁膜症のカテーテル治療を学んでまいりました。その間にTAVIを約1,100件ほど経験し、現在は主に低侵襲カテーテル治療全般(TAVI、マイトラクリップ、左心耳閉鎖術、卵円孔開存閉鎖術)を担当しております。また、日本国内における指導医(プロクター)として認定を受け活動もしております。
大動脈弁狭窄症は放置すると予後不良な疾患の一つですので、これまでの経験を活かし、安全かつ効果的な治療を提供し、患者さんのお力になりたいと考えております。大動脈弁狭窄症の治療でお悩みの患者さんがいらっしゃいましたら、お気軽に当院にお問い合わせください。最適な治療法をご提案いたします。