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疾患② 三叉神経痛



原 因

ほとんどの場合、三叉神経に血管が接触し、神経を圧迫することで三叉神経が過敏になり、顔に痛みを発してしまうことで起こります。まれに脳腫瘍が存在し、原因となることもあります。

症状と診断

診断には問診が必須です。痛みの性状、何等かの誘因があるかどうかなどにて診断します。

画像診断

三叉神経を血管または腫瘍が圧迫して起こる病気ですので、画像にてその状況を確認することは重要で、MRIが有効な手段です。しかしながら、神経と血管の接触、または腫瘍があるからといって全ての患者さんに三叉神経痛が起こるわけではありません。ですから診断には症状が優先されます。つまり、症状があった上でのMRIによる確認、という順番が適切な診断方法です。ほとんどの場合、細いかまたは中程度の太さの動脈(上小脳動脈または前下小脳動脈)が関係しています。血管接触が見つからないことや、太い動脈(椎骨脳底動脈)が関与していることもあります。

治療法の選択

三叉神経痛には薬物治療、神経ブロック療法、放射線治療(ガンマナイフ)、手術治療があります(参考資料※1)。

治療法1. 薬物治療

まずは薬物治療を行います。痛みの性状を確認した上で、症状に見合った処方を行います。何らかの刺激で鋭い痛みが発作的におこる典型的三叉神経痛、純粋発作性(※2)の場合、カルバマゼピン(テグレトール®)が効果を発揮することが多く、それを継続して痛みを緩和している患者さんはたくさんいらっしゃいます。しかし眠気、ふらつき、薬疹、肝機能障害など副作用にも注意が必要な薬です。カルバマゼピンに限らず、三叉神経痛に対する薬物治療を導入する場合には副作用予防の観点から、少量から開始することが大切です。

治療法2. 神経ブロック療法

三叉神経に直接的に神経を障害させる薬剤を注入、または直接的に熱による凝固を行い、一時期的に神経を麻痺させて痛みを感じなくさせる治療法です。主としてペインクリニックで行われています。神経ブロックは当院で行うことができませんので、ご希望の場合には経験ある施設に紹介いたします。

治療法3. 放射線治療(ガンマナイフ)

三叉神経をターゲットし、高濃度の放射線をかけることで三叉神経を麻痺させることを意図した治療です。神経ブロック同様にガンマナイフも当院では治療ができませんので、ご希望される場合には経験ある施設に紹介いたします。

治療法4. 手術治療

三叉神経痛の根本治療です。血管が原因となっている場合について説明します。手術では、血管を神経から離す、つまり減圧(頭蓋内微小血管減圧術K160-2)を行います。全身麻酔下に身体を横に向け、頭部を固定します。耳の後ろごく一部を除毛し、直線状に皮膚切開を行います。頭蓋骨には500円玉程度の穴をあけ、その下の硬膜を切開した後に脳脊髄液を排出し、手術顕微鏡を用いて手術を行います。
適切にくも膜を切開しながら小脳と頭蓋骨の間を通って三叉神経にアプローチします。顔面神経から血管を減圧する方法には大まかに2つの方法があり、神経と血管の間にクッションを挟んで減圧する方法(インターポジション法)と、神経から血管を離して固定する方法(トランスポジション法)です。世界的にはインターポジション法が主流かと思いますが、日本脳神経減圧術学会(※3)ではトランスポジション法を推奨しており、当院では伝統的にトランスポジション法を採用しています。

【三叉神経痛に対する頭蓋内微小血管減圧術】  

血管と神経のイメージ


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手術中の動画の為、不快に感じる恐れがありますので閲覧にはご注意ください。


手術治療の効果とその見込み

日本脳神経減圧術学会の複数施設の共同研究において、トランスポジション法を原則とした手術を行った三叉神経痛の改善率は手術後3年間で83.9%(治癒率は80.0%)、合併症率は5.2%でした(※4)。
手術後に痛みが取れる見込みに関し、手術前に個別に予測する方法も報告されています。
【1】どのような痛みか、【2】どのような薬が有効か、【3】血管の圧迫状況、という3つの項目に注目します。
【1】どのような痛みか
      (症 状)
発作性の鋭い痛みであるか 1点
そうでないか 0点
【2】どのような薬が有効か カルバマゼピン(テグレトール®)が有効であるか
1点
そうでないか 0点
【3】血管の圧迫状況 MRIで血管が接触していないか又は静脈のみの接触がある 1点
動脈の接触がある 2点
動脈によって三叉神経が変形している 3点
手術後痛みが消失する可能性
・ 5点の場合(満点)    93%

・ 4点の場合        76%

・ 3点の場合        44%

・ 2点の場合        16%

・ 1点の場合          4%
以上の点数を加点すると1点から5点(満点)になります。手術後痛みが消失する可能性は、5点(満点)の場合93%、4点の場合76%、3点の場合44%、2点の場合16%、1点の場合4%でした(※5)。ですから手術後にどの程度痛みが取れるか、ということを手術前の状態によってある程度予測することも可能です。

太い血管(椎骨脳底動脈)または脳腫瘍が原因となっている場合

画像診断の項目で述べたように、太い血管または脳腫瘍が原因となっている場合があります。その場合には手術の難易度が非常に高くなります。痛みが消失する確率は90%を超えますが、同時に合併症率も上がります。聴力障害、複視(ものが二重にみえる)、顔面神経麻痺など脳神経の障害が生じる確率が10%以上(一時期的、永続的な障害を含む)あります。

狭い術野が予測される、または三叉神経周囲の骨の出っ張りがある場合

三叉神経周囲で手術する空間が狭いかまたは神経周囲の骨が出っ張っていて三叉神経が適切にみえないことがあります。その場合にはその部分の頭蓋骨を削り取る操作が必要になる可能性があり、手術の難易度があがります。

手術前のMRIで明らかな血管が接触していないと判断される場合

画像診断の項目で述べたように、三叉神経と血管の接触が確認できない場合があります。その場合には三叉神経の線維に沿って割を入れる神経内剥離(internal neurolysisまたはnerve combing)という方法を行うことがあります。手術直後85%の患者さんで痛みが消失し、5年後に約半数の患者さんに有効でした(※6)。この方法を行うと、顔面に違和感、しびれが出ることがありますが、ほとんどの場合日常生活に支障を来さない程度です。世界的に認められ行われている方法ですが、この方法を行うかどうかは患者さんと相談して決めます。

【参考資料】
※1 標準的神経治療:三叉神経痛 日本神経治療学会2021年(インターネットにて閲覧、ダウンロード可能)
※2 国際頭痛分類 第3版(訳)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会2018年(同上)
※3 一般社団法人 日本脳神経減圧術学会
※4 溝渕ら Neurosurgery. 2021 Sep 15;89(4):557-564.(英文)
※5 Sekulaら(米国) Neurosurgery. 2020 Jul 1;87(1):71-79.(英文)
※6 Burchielら(米国) J Neurosurg. 2015 May;122(5):1048-57.(英文)