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縦隔鏡下食道亜全摘について


はじめに

この手術方法は東京大学、京都府立医大を中心とした食道専門施設によって工夫されてきた術式で、「胸を切らない食道手術=非開胸食道手術」とも呼べる手術方法です。2018年から日本で保険術式となり、近年ではヨーロッパや中国などにも広まりつつあります。

従来の食道手術:右胸からの手術で肺に負担がかかる 右図

食道は脊椎(背骨)の前にあり、心臓や気管の後ろにあるため、仰向けの手術では食道を見ることすら困難です。このため患者さんには左下の状態で横向き(側臥位)またはうつ伏せ(腹臥位)に寝てもらい、右側の肋骨の隙間から手術器具を差し込む形の手術を行うのが従来から行われていた食道の手術方法です。かつては、外科医が手を入れて食道を触れるために、右胸に大きなキズを置いて、さらに肋骨を切り離したりするなど、からだの負担の大きいいわゆる開胸手術が広く行われていました。最近では手術用のカメラ(CCDカメラが先端に装着された棒状のもの)を用いて、手を胸の中に入れないで行う胸腔鏡手術が主流となっています。とはいえ、胸腔鏡手術でも食道に手術操作を行うためには右肺を押し潰して縮めた状態としなければならないため、手術中は左の片肺のみで呼吸を維持する必要があり、この結果、左右のどちらの肺へも負担となります(図をご覧ください)。また、胸の手術だけでなく、食道の再建には腹部や頸部にも手術操作が必要で、頸部、胸、腹の3つの領域の手術を合わせて行うことになります。

縦隔鏡下食道亜全摘:頸部、腹部から手術を行い、肺に触れることなく食道を切除 左図

縦隔鏡下食道亜全摘は、肺をしぼませずに頸部のキズと腹部の小さなキズから、手術用カメラを差し込み食道に沿ったトンネルを掘り進めるような形で食道を心臓や気管、大動脈、脊椎から外していきます。つまり胸の手術操作を頸部及び腹部のキズから完遂するので、肺をほとんど触ることなく食道を切除することができます。そして胃の手術と同じ形の麻酔で両肺を使った人工呼吸法で手術を行うので肺に優しい手術といえます。また、肺がんの手術や結核の既往、肺気腫などから肺をしぼませることができない患者さんにも実施することが可能です。
食道がんの手術には転移の可能性の高いリンパ節をしっかりと切除すること(リンパ節郭清)が求められています。その点では、縦隔鏡下食道亜全摘は保険術式としてなってからまだ6年(2024年4月の時点で)ですので、治療成績がまだ発表されておらず、従来の手術と同等の治療成績となっていることを実証した報告がまだ得られていません。一方では、縦隔鏡下食道亜全摘の術後は術後肺炎が少なく、退院後の呼吸機能も保たれて安全かつ身体に優しい手術であることが複数の論文で示されています。
当院では10年以上縦隔鏡下食道亜全摘に携わってきた医師が手術を担当しており、この手術方法を主な術式として実施しております。